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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)107号 判決

本件実用新案登録出願にかかる考案(以下本件考案という)の登録請求の範囲は、「主版(1)の表面に凹陥部(3)及び周縁(4)を設け、該周縁(4)の上辺及び下辺に相対向して前記凹陥部(3)に連通する挿入溝(5)(5′)を穿設し、透明版(6)の上下両端に突設せる突出部(7)(7′)を各挿入せしめて、凹陥部(3)の上面に透明版(6)を重合せしめて成る名札の構造」であり、その作用効果は「主版(1)の凹陥部(3)内に名版(8)を表面向に収容すると共に、透明版(6)を上下にやや彎曲させて両端に突設せる突出部(7)(7′)を主版(1)に設けた周縁(4)の挿入溝(5)(5′)にそれぞれ挿入せしめて、主版(1)の凹陥部(3)に透明版(6)を確実に重合し、従つて両者の中間に介在する名版(8)は完全に保持されて、使用中に透明版(6)及び名版(8)は全然脱挿する虞れがなく、また必要に応じて名版(8)を脱出させる際は、主版(1)の裏面より押孔(2)を通じて名版(8)及び透明版(6)の中央部を押圧して、挿入溝(5)(5′)より透明版(6)の突出部(7)(7′)を脱挿させて透明版(6)と共に名版(8)を容易に脱出させることができる」点にあることが認められる。

また成立に争いのない甲第八号証(乙第一号証の三)によれば、審決で引用された登録第二、二五三号実用新案は明治三九年四月二六日に出願せられ、同年五月三一日に登録となつたものであつて、その公報に記載せられた標示金具は「ほぼ楕円形の平らな板でできている坐金(イ)の左右の突出部に取付孔(A)(A)を設け、この取付孔の近くに矩形箱型の突出部を形成し、この突出部を挾定部(B)(B′)とし、右坐金とは別個に坐金と同様ほぼ楕円形の包装金具(ロ)があつて、この金具は中央に楕円形の大きな透孔(D)のある枠体で、この透孔(D)の全周に段部があり、この段部と坐金(イ)との間の空所に透明セルロイド若しくは透明質の物料をもつて作つた薄板(以下透明薄板という)(ハ)と標記札とが重ねておかれるようにせられており、包装金具(ロ)の左右の端には坐金(イ)の挾定部(B)(B′)に嵌合する矩形状の凸縁(C)(C)があり、この凸縁を挾定部に嵌合すれば坐金と包装金具との間に透明薄板と標示札とを挾持することができるようになつている構造」のものであることが認められる。そして右標示金具は、その構造から見て、透明薄板(ハ)及び標示札が坐金(イ)及び包装金具(ロ)によつて完全に保持されて使用中に脱挿するおそれがなく、また必要に応じてこれらを容易に脱出させることができ、従つて標示札の交替も当然できる作用効果を有するものと認めて然るべきである。

原告は、右引用例にあつては、取付後右透明薄板及び標示札の交替が不能であると主張するが、元来この種標示金具は、その性質上、これに挾持した標記札の交替を可能なように構成するのが寧ろ普通のことと解せられるところであつて、引用の実用新案公報には標示札の交替が可能である旨明記してはいないが、前認定のように、右標示金具は、標記札を挾持するについては、坐金(イ)の挾定部(B)(B′)に包装金具(ロ)の凸縁(C)(C)を嵌合することによつてこれをしたものであるから、右の嵌合を元に復すること、即ち取り外すことは当然可能のものと考えられ、従つて右標示金具は凸縁(C)(C)を挾定部(B)(B′)より取り外して標記札及び透明薄板の交替を可能ならしめ得るものと解するのが相当であつて、原告の右主張はこれを採用することはできない。(右引例のものにおける凸縁の挾定部への嵌合をどうしてするかは公報になんらの記載もない。しかしこの種の標示金具は元来薄い材料で作られるのが普通であるから、右公報の標示金具における包装金具(ロ)の凸縁(C)(C)も薄い材料で作られていて、さほど大きな力を要しないで容易に屈伸できるものであり、凸縁(C)(C)を屈伸することによつてこれを挾定部(B)(B′)に嵌合したものであり、従つてまたこれを元に復することも容易にできるものと解してよいであろう。)

そこで本件考案と審決における右引用例とを対比して考えてみるのに、

(一) 本件考案における周縁(4)及び凹陥部(3)は、引用例における包装金具(ロ)の段部及びこれと坐金(イ)との間の空所にそれぞれ相当し、

(二) 本件考案の挿入溝(5)(5′)及びこれに嵌合する突出部(7)(7′)は、引用例の挾定部(B)(B′)及び凸縁(C)(C)にそれぞれ相当し、

(三) または本件考案における凹陥部(3)に重合した透明版(6)は、引用例における包装金具(ロ)の段部に重合した透明薄板(ハ)に相当するものであつて、

右両者はこれらの基本的構造において一致することが認められるが、ただ

(四) 本件考案にあつては周縁(4)及び凹陥部(3)が、ともに主版(1)の表面に設けられているに対し、引用例のものでは右周縁及び凹陥部に相当する段部及びこれと坐金(イ)との間の空所が、段部は包装金具(ロ)に、空所は包装金具(ロ)と坐金(イ)との関連において坐金(イ)上に形成せられており、

(五) また本件考案においては突出部(7)(7′)を透明版自体に設けているに対し、引用例では右突出部に相当する凸縁(C)(C)を包装金具(ロ)の左右端部に設けているものであつて、

右両者はこの(四)、(五)の点においては一応その相違があるものと認められる。そしてなお作用効果においては引用例のものも本件考案のものと同等の作用効果を奏するものと認むべきことは前に説明の通りである。

原告は右(四)の相違点に関し、「本件考案のものは主版(1)の表面に凹陥部(3)及び周縁(4)を設けているが、引例のものの坐金(イ)の表面は平滑であつてなんら本件考案のものに存する凹陥部(3)及び周縁(4)に該当する構造を有せず」、また「本件考案は主版(1)に凹陥部(3)及び周縁(4)を一体に最初から形成したものであつて、引用例のように坐金(イ)と包装金具(ロ)とを組立てて二者を一体にしたものでない」から、両者は基本的構造を全然別異にするものであると主張する。そして引用例のものにおいて、坐金(イ)に凹陥部があるものと認めた審決が、この点において引用例を誤認したものであることは正に原告指摘の通りである(この点は被告もこれを争わない)が、凹陥部と周縁とを最初から主版に一体に形成するか、平担な主版と段部を有する包装金具とを組合せて前者と同様な機構とするか、また後者のような二者構成のものを前者のような一体構成のものにするかは、当事者が格別の考案力を要せずして設計変更として容易にこれを為し得るところと判断するのが相当であり、かつ右(四)の相違点のために作用効果上においても両者間に格別の差異があるものとも認められないところであるから、右相違点は当業者が容易に設計変更としてなし得る程度のものといわざるを得ない。従つて原告の右主張はこれを採用できないところであり、また審決における前記の誤認も、本件考案を登録すべきか否かの判断には結局において格別の影響があるものとも考えられないところであるから、右誤認により審決を取消すべき違法があるものとも解することはできない。

また右(五)の相違点も、本件考案のものは、合成樹脂その他の柔軟材料が容易に得られ、その利用が普及した本件出願当時になつて、引用例の透明薄板を取付けた包装金具を一枚の透明版に代えて、この透明版自体に設けた突出部によつて主版との係合を計つたものであつて、このことによつて透明版の着脱を容易にする意味で作用効果上多少の利点がないではないにしても、右透明材料の製産利用の発達による材料の転換として当業者が容易になし得るところであり、格別の考案力を要するものとも解し難いところである。

以上の通りであるから、本件考案と引用例とはその基本構造及び作用効果において一致し、その構造上の相違点も、当業者が考案力を要せずして設計変更としてなし得る程度のものと認められ、本件考案は引用例に全体として類似するものと認むべきである。

従つて結局右と同趣旨に出て原告の抗告審判の請求を排斥した本件審決は相当であつて、その取消を求める原告の請求は失当である。

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